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エンターテイメント小説の極北である。松本清張の名作に
勝るとも劣らぬ傑作であろう。奥田英朗「オリンピックの身代金」。 人それぞれに、それぞれの念いがあり、それぞれの人生がある。 この真実を読者につたえるために、作家は企んだ。 昭和39年10月10日へ向けて。 弱者の犠牲の上に成り立つ、国家の威信を傷つけるべく 東京オリンピックの開催を妨害する貧農出身の東大院生島崎国男と、 これを阻止せんとする団地住まいの刑事落合昌夫の攻防を軸に、 警察官僚の次男坊でテレビ局員の須賀忠、 ビートルズにときめく下町の高卒事務員小林良子、 4人それぞれを、日付入りの章立て毎に主人公とし、その行動を 逐一辿りながら、すべてを開会式当日の国立代々木競技場へと収斂させる。 章立てが替わる毎に、感情移入する対象が替わる。理非は、善悪は、 果たしてどちらにあるのか。自分は、どちらに与みするのか。勧善懲悪では、 さらさらない。非人間的な巨大組織にハードボイルドな主人公が 孤高の闘いを挑むといった、痛快娯楽とも違う。 作家は、富める者の富めるが故の豊かさを描き、 貧しい者の貧しさ故の卑しさを描く。その硬質な筆致に、 僕は、劇しく撃たれた。だからこそ、貧しい者を貧しいまま 放っておいてはならない。マルキシズムの気配が、ページから立ち上る。 出稼ぎ人夫として虫けらのように死んで行った兄への負い目から、 オリンピック工事の人夫となって働く島崎国男が、兄と同じようにして 死んで行った、人夫の遺骨を引き取るため上京した寡婦を上野駅で出迎え、 葬儀場の羽田まで案内し、その帰り、東京見物を約束する場面が素晴らしい。 …女は、それほど悲しみに暮れていないのだろうか、淡々と家の事情を 説明した。残っているのは八十近い義母と自分と長男の嫁、そして孫が二人。 田植えと稲刈りの時期には長男が帰ってくるが、それ以外は女三人でやるしか ないとのこと。もう一人、娘もいるが、数年前に隣村の農家に嫁いだそうだ。 「農家だけはいやだと言ってだけど、おらに似て器量が悪いから どうするこどもできね」 国男は返答に困り、黙って聞いていた。女はカツ丼をむしゃむしゃと 食べながら、なおも口を開く。(中略) 「列車は夜だがら、それまで一生に一度の東京見物でもしようかと思ってね。 おら、秋田を出てがら東京さ来るまで考えでました」 「そうですか。いいじゃないですか、東京見物」(中略) 女は緊張が解けたのか、首を左右に曲げ、自分の手で肩をたたいた。 そして再びカツ丼に向かい、米粒ひとつたりとも残さないぞという集中振りで 咀嚼する。最後は沢庵をぽりぽりと食べ、舌で歯を舐め、「チッチッ」と 音を立てた。品がないと言うより、マナーの概念がないのだろう。 女は満足そうに腹をさすると、窓の外に目をやり、飛び交う飛行機を 小学生のような熱心さで眺めていた。… 寡婦を出迎えた上野駅で、島崎国男は、同郷の老スリ師村田留吉と運命的に 再会する。そして以降、村田留吉は、孤軍島崎国男の唯一の同志となる。 捜査網が絞られ、間一髪虎口を脱した二人が、故郷秋田の隣県青森に 一時潜伏する場面こそは、本作の白眉である。 温泉場の湯船に浸りながら二人が交わす会話ー …「昔は、秋田で悪さすると北海道の炭鉱に身を隠すなんてこどが あったけど、今はそうもいがねえだろうな。なにせ鉄道と道路が通って、 日本中が狭くなっでしまっだ。警察だって昔みてえにのんびりしてねえ。 昔は身分照会ひとつにも手紙だったけど、今は電話だ。 全体が縮んだというか、道と電気でつながったんだね」 「それでも田舎は貧しいままです。富は東京に集中してます。 利益を中央に吸い上げるための仕組みが、着々と出来ているという ことなんじゃないでしょうか」 「おめはすぐにそう言うけど、東京がながったら、日本人は意気消沈 してしまうべ。今は多少不公平でも石を高く積み上げる時期なのと ちがうか。横に積むのはもう少し先だ」 大学教授でも言わないようなことを村田が口にするので、湯煙の中、 国男はその横顔をしばし見つめた。(中略) 「村田さんは、東京が好きなんですか」 「ああ、好きだ。誰もおらのこどを知らねえとごろなんか、とくに好きだ」 「じゃあ、どうして東京オリンピックの妨害を手伝おうとするのですか」 「それはそれ。なんか面白ぐてな。おらはこの二十年、何の目標もなぐ 生きできた。スリをしで、金を得で、その金で呑んで、食って、女さ買っで、 素泊まり宿に寝で、またスリをする。ときどき刑務所に入っで、出てきて、 また同じこどを繰り返す。空しいというか、張り合いがないというか、 もうちっと生きでる証拠が欲しぐでな。そんなとき、あんちゃんが現れた。 それはもう眩しがった。国を相手にダイナマイトを爆発させで、まったく 動じねえ。オリンピックを人質に身代金まで要求する。こういうのは 悪じゃねえ。反逆だっぺ。こっちは私利私欲だけの小物だったがら、 手伝うだけで大物の気分が味わえる」 「そんなものですか」 「ああ、そんなもんだ。今頃、上野署のスリ担当の刑事どもはびっくり してるべ。あの村田が爆弾犯の一味なのか、オリンピックを盾に国を脅迫 してるのかってー。もうデカ長風情にくだらねえ説教はさせね。 ワッパかけるならもっとえらい刑事さ連れてこいって心境だね」 国男は苦笑し、湯船に鼻まで浸かった。 「縁起でもねえこどを言うが。あんちゃん、何があっても死ぬなよ。 おらはあんちゃんの子供が見たいっぺ」 「なんですかそれは」 「おらは孫がいねえから、代わりに抱いてみたいべさ。もしも 捕まるこどがあっだら、おらが被れるもんは被ってやる。だから 拳銃さ抜いた警官にまでは向かっていぐな」… そして、親が子を案じるような島崎国男に寄せる村田留吉の、この痛切な情愛が、 最期の最期の土壇場、国家に一矢報いんとする島崎国男の捨身の反逆を 打ち砕くのである。何たる結末。カタルシスなどない。島崎国男の無念に想いを 馳せながら、これでよかった、こうなるほかなかったという感情が交錯する。 もし僕が、本作を映画化するなら。クロージングタイトルのバックには、 幻の歌姫ちあきなおみのラストレコーディングナンバー「紅い花」を 流すだろう。「紅い花」は、革命のメタファである。 ♪〜 昨日の夢を追いかけて 今夜もひとりざわめきに遊ぶ 昔の自分がなつかしくなり 酒をあおる 騒いで飲んでいるうちに こんなにはやく時は過ぎるのか 琥珀のグラスに浮かんで消える 虹色の夢 紅い花 想いを込めてささげた恋唄 あの日あの頃は今どこに いつか消えた夢ひとつ ♪〜 悩んだあとの苦笑い くやんでみても時は戻らない 疲れた自分が愛しくなって 酒にうたう いつしか外は雨の音 乾いた胸が思い出に濡れて 灯りがチラチラゆがんでうつる あの日のように 紅い花 踏みにじられて流れた恋唄 あの日あの頃は今どこに いつか消えた影ひとつ 紅い花 暗闇の中むなしい恋唄 あの日あの頃は今どこに 今日も消える夢ひとつ 〜
by blog-blues
| 2009-11-24 14:33
| 文学の風
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Trackback(12)
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Comments(6)
低迷しているな、ずっとと思っていたが、力のある、エントリー、一気に読んだ。 そんなふうに行かなくちゃ!
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連絡をとろうと思ったけどメルアドが表記されてないね。
このブログには。
「ルンペン放浪記」へ。どうも、いらっしゃいませ。わーい、田中の親方に褒められた。う、うれぴー!奥田英朗、僕はつい最近知ったのですが、結構キャリアのある作家で、本作の他にも「ララピポ」とか、肺腑を抉るような作品をものにする、一筋縄ではいかない作家です。一気に嵌まって、貪り読んでます。
「憂国派」へ。はじめてですよね。ようこそおいでくださいました。もし非公開を望まれるメッセージでしたら、好きではありませんが、どうぞ鍵コメでお送りください。
「京都ごろごろ案内」へ。コメント、アリガト。奥田英朗、面白いよねえ。いやー、僕は読め始めたばかりだけど。ポップな伊良部先生シリーズに於いてさえ、社会に対する憤怒、呪詛が伺える。シリアスな本作は、さらなり。デオドラントな市民社会ってえのが、けったくそ悪いという作家的感性。面白くないわけがない。
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