「あなた童貞?」「あなた処女?」
「やーめた」「夢を見てたでしょ、こわ〜い夢」
「あーあ、死にたい」「なかなか死ねないもんですね」
「後悔するぞ」「後悔したいんだ」。
また今年も、観てしまった。毎年、夏が仕舞われる頃、
無性に観たくなり、観る度に甦る、感情が、ある。

♪〜 私の海を 真っ赤に染めて
夕陽が血汐を 流しているわ
あの夏の光と影は どこへ逝ってしまったの 〜
感傷と、呼ぶべきだろうか。
十八歳。ひと夏の出来事。その刹那から永遠までのズーミングは、
映画の奇跡だ。藤田敏八、畢生の傑作「八月の濡れた砂」。
仮に、青春と呼び得るものがあるとして、それは、ひと夏に
生まれ死んでしまう、蝉のようなもの。後に残るのは、抜け殻。
抜け殻だけが、青春だ。そんな甘ったれた虚無が、全編を貫く。
♪〜 打ち上げられた ヨットのように
いつかは愛も 朽ちるものなのね
あの夏の光と影は どこへ逝ってしまったの 〜
「ズキズキする、重症だ」。
(1971年日活映画、主題歌:「八月の濡れた砂」石川セリ)