戦争の夏、日本の夏。
U-NEXTで視聴したのだが。映画が始まって、
なんだよ、この戦争映画。意識が低すぎんじゃないの、と。
B級娯楽。いかにして、低予算で戦場を映すのかに終始しただけの作品ね、と。

だが。山下将軍を演じた、早川雪洲の佇まいに惹かれて、
リモコンのスイッチを切り損ね、ついつい見続けるうちに。
映画は、マニラから敗走する日本軍と在留日本人の逃避行を、延々と映し出す。
トーンが、明らかに変わる。映画好きなら、誰しもが感得できるだろう。凄い。
投降を潔しとしない、傷病兵が『君が代』を歌う。映画作家は、
脚本八木保太郎、監督佐伯清、天皇の戦争責任を、問うている。
その直前のシーンでは、母と生き別れた在留日本人の娘が、母の白骨死体に対面、
気が触れ、踊り出すのである。まるで『道』のジュリエッタ・マシーナかのよう、
唐突さに息を呑むシュールなシーン。シュールこそが、戦争の実態だと。
僕は、受け止めた。凄いです。
白旗を掲げ山道を降る、山下将軍の悲愴ながらも雄々しい道行も、感涙を誘う。
降伏の証である白旗が、勇気の徴として、画面にはためく。見事な演出である。
玉砕を美しとせず、投降をもまた諒とする。命ほしさでは断じてない、
「マレーの虎」と謳われた、軍神がである。そんな将軍、俺は知らねえぜ。
そして、捕虜収容所のシークエンス。
栄えある皇軍を己の理想としながら、現実には、全く違った皇軍の姿が、
戦争裁判の場で明らかにされ、その全責任を負わされる。山下の苦痛と、
それを従容として受け容れ、絞首刑台に立つ山下を、映画は描く。
僕は、戦争指導者が、大々大嫌いだ。兵士や国民に死を強要しながら、
てめえは、ぬけぬけと生き延びやがって。許せねえ。
卑怯者、貴様それでも軍人か、日本人か。
許せるのは、切腹した特攻隊の生みの親大西瀧治郎であり、
一死以って大罪を謝した阿南惟幾であり、山下奉文である。
絞首刑台の露と消えた、山下将軍が遺した言葉、遺言は、
ご存知だろうか。日本国憲法の精神、そのままなんです。
僕は、日本国憲法の精神を踏み躙る輩が、大々大嫌いだ。
日本国憲法は、特攻で、玉砕で、死んでいった英霊の賜物なんだ。
断じて、踏み躙ってはならない、ものなんだ。
伝聞によれば、戦争の記憶を伝えるために、毎夏、
戦争映画をラインナップし、一挙上映する名画座の独自企画があるとか。
本作は、ラインアップされているだろうか。されていないと思う、せよ。
本作こそ、陽のあたらない戦争映画の名画、だ。