新劇女優・加藤治子逝去のニュースに接し、旧稿をUPしたい。
初出は2007年6月。歳月人を待たないぜ。さよならだけが、
人生なんですね。文芸ブログを自称する「BLOG BLUES」の
全エントリの中でも、殊のほか、愛着ある一編です。
劇作家永井愛。そりゃ名前くらいは知ってましたよ。
岸田戯曲賞作家で、御大井上ひさしが絶賛している、演劇界の若きエースだって
ことは。でも、肝心の舞台は未見なんです。どうゆうものか、文学音楽美術映画、
文芸百般、みんな好きなんだけれども、演劇だけは、苦手なんだなあ。
演じる側と観る側が、地つづきの、同次元で相対するってえのが、
気恥ずかしいってゆうか、暑苦しいってゆうか。尤も、観りゃ観たでね、
感動したりもするんだけども。なかなか重い腰が上がらない。
それで、永井愛も、評判を耳にして興味は持っていたのですが、未だご無沙汰。
それが、当たり狂言の加藤治子主演「こんにちは、母さん」が、
NHKで、4回シリーズのドラマで放送されるって。父さんもう、初回から
入れ込んで、TV桟敷の前に陣取りましたよ。先週土曜、最終回終了。
素晴らしい。僕がこれまで観て来た、全TVドラマ作品のベスト1か2か、
うーん。因みに対抗馬は、市川森一脚本「淋しいのはお前だけじゃない」。
ホントに、ホントに、素晴らしんだから。今頃言い募って、演劇ファンには
申し訳ありませんが。いやー、才能って、あるもんですね。志は、健在なんだ。
舞台は東京下町。時代は現代、平成日本。足袋職人の夫に先立たれた
母さん、加藤治子を中心に織りなされる人間模様。母さんの恋人!
元大学教授の古典文学研究家、首切り管理職で熟年離婚の危機にある息子、
息子に首切り宣告されたリストラ男、母さんが参加してる出稼ぎ外国人支援の
ボランティアサークル仲間の主婦たち、サークルの支援を受ける中国人女性。
みんな生きている。みんな苦しんでいる。みんな泣いている。
みんな念いを抱いている。老人の恋愛がある。リストラ問題がある。
夫婦の断絶がある。親子の断絶がある。インターナショナルな連帯がある。
地域コミュニティの再生がある。戦争の傷痕がある。そのすべてが、
ホームドラマ。等身大の家庭劇として、滑稽かつ痛切に描かれる。

比類なき劇作家の腕力、臍力。そして、演技陣の充実。主演加藤治子を
筆頭に、児玉清、平田満、段田安則、渡辺えり子、いしだあゆみ、小山萌子。
見事な個人技であり、至高のアンサンブルであった。
僕らがいま失いかけている、否、奪われかけている、大切なもの。
尊いもの。それが、役者たちの台詞の数々に、仕種表情の端々に、現われて、
静かに、だが、圧倒的な迫力を孕み訴えかけて来る。
それは、個々の人間性を算奪して止まない、功利万能社会への
異議申し立てであり、自衛の拠り所となる「絆」の再発見であり、
「絆」を結ぶために、互いが互いの「念いを共有」しようとの主張である。
でも、何ですね。こんな解った風な言い種は、
このドラマには似合いません。ここは一つ、舞台設定に相応しく、
「可哀想だは惚れたってことよ」。名もなき庶民の「心意気」だと断じたい。
どれほど腹を抱えて笑っただろう。どれほど胸を衝かれ涙ぐんだだろう。
僕は、随分、ブログで偉そうなことを言ってるが、一個の人間の美しさにおいて、
このドラマの登場人物たちの足元にも及ばない。いいないいな人間って、いいな。
就中、加藤治子いい女!僕は昔っから、こうゆう
お侠な下町娘(老人だけど、そうなのだ)が、大大大好き。
「こんにちは、母さん」への、これが、僕のオマージュ。よっ日本一!!