先日、日本映画専門チャンネルで放映された。
グッとくる題名である。新藤兼人のオリジナル脚本で、
監督は白磁の如き映像美で鳴る、三隅研次。
三隅名作は「剣三部作」をはじめ、あらかた押さえていた
つもりだが、これほどの傑作が、未だあったとは!
長州の足軽侍の次男で、脱藩し尊皇攘夷派の暗殺者の群れに
身を投じる若き主人公に、津川雅彦。これはもう、
ヅラを着けたヌーベルヴァーグだ。大島渚の「太陽の墓場」や
「日本の夜と霧」に、まったくひけをとらない。
そして、主人公の暗殺者と運命の恋に陥る幼い舞妓に、
高田美和。そのネイティブな京都弁の美しさは、
切ないまでの劇しさと悲しみに彩られた本編に、錦上花を添える。
開巻劈頭。幕府要人の襲撃に加わり手傷を負った主人公が、
見廻組に追われ、町家の立ち並ぶ京の路地伝いを逃げまわる。
このロケーション撮影に、まず度肝を抜かれる。
時代劇の醍醐味、京都の町を知悉した、監督を筆頭とする
大映京都撮影所の映画職人たちの独壇場である。
追いつめられ、それでも必死になって、生き抜かんと足掻く
主人公の内面までもが伝わってくる、圧倒的な「狭さ」に、
目眩さえ覚える。京都の町って、凄い。
展望のない封建の世からの脱出口を求め、
尊皇攘夷運動に己の立身出世を賭けた主人公が、
貧乏に苛まれ祇園に身を売るほかなかった舞妓への愛から、
いつしか真の世直しを求めていくーその実存的変化の過程が、
息苦しいほどの緊密なシナリオ構成によって、見事に描かれる。
そして、深い思想性を孕んだ脚本の精髄を
シネマスコープのモノクロ画面に鮮烈に映し出す、
演出の冴え!日本映画の本当の面白さが、ここにある。
近年名声が高まってきたが、生前は省みられることのなかった
悲運の名匠、三隅研次が、陽の射すところに縁などない己の映画人生を
舞妓と暗殺者の運命に、重ね焼いたかのような裂帛の気合いが迸る。
本編を彩る、切ないまでの劇しさと悲しみの、源であろう。