痛快骨太男性娯楽アクションにして、魂の反戦映画といえば、
そう、われらが岡本喜八!独立愚連隊シリーズ番外篇「血と砂」である。
舞台は、敗戦寸前の昭和20年夏の北支戦線。
三船敏郎演じる金鵄勲章の古参曹長が、学徒出陣の音楽学校の新兵を率いて、
八路軍相手に砦攻防戦を繰り広げるという、エンターテイメント100%の設定。
三船曹長に砦奪回の命令を下す、大隊の大尉に仲代達矢。
曹長の男気に惚れたやさぐれ兵士に、娑婆で板前だった佐藤允、
葬儀屋だった伊藤雄之助、戦闘サボタージュのアカの天本英世、クセ者揃い。
加えて、錦上花を添える紅一点、朝鮮人慰安婦の団令子。
戦場ファンタジーである。戦場という極限状態に於いてなお、
否、於いてこそ、人間の尊厳と魂の交歓を求めてやまない、喜八節が炸裂する。
自分を慕って最前線に駆けつけてくれた朝鮮人慰安婦に、千軍万馬の曹長は、
戦死必至の童貞新兵たちの今生の思い出にと、筆下ろしを頼むのである。
「いいか、お前ら!お春さんに抱いてもらう時は敬礼を忘れるな!」
そして、八路軍の銃撃を受けた瀕死の際から、
金鵄勲章を朝鮮人慰安婦に手渡し、
「こいつは、俺よりお前さんのほうが似合う。
受け取ってくれ。本当に、ありがとう」と息絶えるのである。
朝鮮人慰安婦の胸に金鵄勲章を飾る、これが喜八節の真骨頂。
誠に人間臭い、劇しく胸を撃つ、反権力のメッセージである。
人間は肉でしょ、気持ちいっぱいあるでしょ。
安倍総理に、この人間性が一片なりともあらば、
従軍慰安婦問題が、ここまで拗れ続けることもなかったであろう。
一人また一人と戦死してゆき、残った八人の新兵は、
爆撃と銃弾の嵐の中で「聖者の行進」を奏で続ける。
そして、その八人もまた一人づつ斃れてゆき、斃れると同時に、
楽器の音色も消えてゆき、最後は、トランペットの独奏となり、
そのトランペットも熄む。見事な演出。音楽は、佐藤勝。